2021/06/09
研究活動 プレスリリース

【プレスリリース】東京医科大学医学総合研究所の落谷孝広教授が参画する共同研究グループが、胆汁輸送を再現した肝臓オルガノイドの開発に成功 ~新規治療薬開発や毒性試験への応用に期待~

 東京医科大学(学長:林由起子/東京都新宿区)の医学総合研究所落谷孝広教授が参画する共同研究グループは、胆汁輸送を再現した肝臓オルガノイドの開発に成功しました。
 この成果は、英国科学雑誌「Nature Communications」に、日本時間2021年6月7日(月)午後6時に公表されましたのでお知らせいたします。

<研究の概要>
 新規治療薬の開発や毒性試験に使用可能な培養系を構築するために、胆汁排泄路を有した肝臓オルガノイドの誘導を試みた。マウスの肝前駆細胞と胆管上皮細胞を共培養することで、肝細胞が形成する毛細胆管と胆管が機能的に接続した肝臓オルガノイドHepatobiliary Tubular Organoid (HBTO)を作成することに成功した。さらにヒト肝細胞を導入したHBTOの作成にも成功した。HBTOでは、高いアルブミン分泌能や薬剤代謝酵素活性が長期間維持されており、肝細胞が取り込んだ胆汁酸やビリルビンが生体内の肝組織と同様に肝細胞から胆管へ輸送されることが明らかになった。

<研究のポイント>
 近年、種々の幹細胞からの肝細胞様細胞の誘導あるいはヒト肝細胞の増幅がある程度可能になっている。しかしながら、肝機能が充分に誘導されていない、生体内と同様な肝臓の組織構造が再現されていない、などの問題が残されている。従来の幹細胞からの分化誘導では肝機能誘導が困難であることから、我々は成熟分化する能力を有する成体由来の肝前駆細胞を用いたオルガノイド誘導を目指した。その結果、肝細胞と胆管の接続に世界で初めて成功した。胆汁排泄路を備えたことで、高度な肝機能の誘導と長期維持および肝細胞代謝産物の肝組織内動態の再現が可能になった。

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<研究の背景、実施期間など>
 肝臓は代謝の中心を担う臓器であり、治療薬の多くは肝臓で代謝されて生理活性や毒性を示す。新規薬剤開発のための前臨床研究では、培養肝細胞を用いた活性?毒性試験が実施される。しかしながら、これまでの培養系では組織構造が再現されていない。そのため、化合物の薬理活性や有効性に関わる重要な項目とされるADMEすなわち吸収(Absorption),分布(Distribution),代謝(Metabolism)および排泄(Excretion)を一括してアッセイすることができなかった。HBTOの開発は、ADMEを簡便にアッセイする実験系構築につながる成果である。

<研究の意義、今後の展開など>
 HBTOは、肝細胞代謝産物の組織内動態を反映している。したがって、HBTOを用いた薬物毒性アッセイ系を構築することで、より生体内に近い環境での薬物毒性を検証することが可能である。in vitro試験から動物実験に移行した後の新規薬品開発の中断リスクを軽減できると期待される。
 現在、HBTOを用いた胆汁うっ滞モデルを開発中である。胆汁うっ滞は薬物障害による肝疾患(Drug induced liver injury: DILI)や代謝異常に伴う脂肪肝炎や肝硬変など、多くの慢性肝疾患でみられる病態である。HBTOを用いた胆汁うっ滞モデルは、慢性肝疾患の病態解明や新規治療薬開発に使用可能である。

<論文発表の概要>

○論文発表
■研究論文名:Generation of functional liver organoids on combining hepatocytes and cholangiocytes with hepatobiliary connections ex vivo
■著者:谷水直樹(組織再生)、市戸義久(組織再生)、佐々木泰史(生物学)、伊藤暢(東京大学)、須藤亮(慶応大学)、山口智子(東京医大)、勝田毅(ペンシルバニア大学)、二宮孝文(解剖学第一)、時野隆至(ゲノム医科学)、落谷孝広(東京医大)、宮島篤(東京大学)、三高俊広(組織再生)
■公表雑誌:Nature Communications
■公表日:日本時間 2021年6月7日18時(現地時間(London)2021年6月7日10時)

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